愛鳥さんとの日々のバードライフ、かわいい仕草や元気な鳴き声に癒される一方で、「最近の行動が少し変かも?」と感じたことはありませんか?実はそれ、発情行動のサインかもしれません。
発情自体は自然な生理現象ですが、過剰な発情――いわゆる「過発情」になると、健康に深刻な影響を与えることがあります。たとえば、卵詰まりや腹部ヘルニアといった症状は放置すれば命の危険につながることも、、、発情行動のサインは、鳥飼い初心者さんでは気づきにくく、適切な対応が遅れがちです。
この記事を読むことで、愛鳥さんが過発情に陥るリスクを未然に防ぎ、より健康に長生きしてもらうための知識を得られます。
飼い主さんの行動ひとつで、大切な愛鳥さんの命を守ることができます。ぜひ最後までお読みください。
目次
飼い鳥の発情サイン5つの特徴
鳥さんも他の動物と同様で、繁殖期になると、もしくは繁殖が出来そうな条件がそろうと性的な行動をするようになりますこれを『発情行動』と呼び、発情状態にあるよというサインでもあります。
よく見られる発情のサインを5つ挙げますね。
攻撃的になる
発情が始まると性的なフラストレーションや縄張り意識が高まり、普段より攻撃的になることがあります。特に、飼い主さんに対して急に噛みついたり、威嚇するような仕草を見せることが増える場合は、発情のサインかもしれません。
発情時のホルモンバランスの変化により、気分が不安定になり、ちょっとした刺激でも興奮しやすくなります。飼い主さんがいつも通りに手を差し出しただけなのに、突然噛みつかれた、、、そんな経験はありませんか?これは、普段は温厚な鳥さんでも発情の影響で感情が不安定になるためです。
飼い鳥さんであっても、野生の本能は持っています。発情期になるとパートナーや巣を守ろうという本能的な防衛意識が強まります。特にメスは攻撃的になりやすい傾向があるようです。
暗い・狭い場所を好む
暗い場所や狭い場所にこもろうとするのは、発情の典型的な兆候で、安全で快適な場所で卵を産んで育てたいと思う鳥さんの本能的な行動でもあります。また、その場所へ巣の材料となるようなものを持ち込もうとすることもあります。コザクラインコは、巣の材料集めとして紙などを器用に噛みちぎる行動も見せるようになります。
飼い鳥さんにとって、『発情 = 繁殖の準備』です。特にメスの鳥さんは、巣作りをするために暗くて隠れられる場所を探す習性があります。
また、巣の材料になりそうなもの(ティッシュ、紙切れ、羽毛など)を運ぶのも発情行動の可能性が高いです。
- ケージの隅
- 飼い主さんの服の袖やフードの中
- 家具の隙間や棚の奥
フンの量が増える
発情すると食事の摂取量が増えるのと、巣の中をすこしでもキレイに保ちたいという理由でフンをする回数を減らそうとします。よって、一回のフンの量が多くなります。この現象は「ためフン」とも呼ばれ、発情期の鳥さんに見られる特徴的な行動のひとつです。
- フンの量が明らかに増える
- 普段のフンよりも1回の排泄量が多くなり、塊が大きくなります。特に朝一番のフンが普段より大きくなることが多いです。
- フンの回数が減る
- 発情していないときは、小まめにフンをする鳥さんが多いですが、発情中は回数が減り、ため込んだ分を一気に排泄するようになります。
- フンの形や質が変わることも
- ためフンは長時間ためてから排泄されるため、通常よりも水分が多くなったり、柔らかくなる場合があります。ただし、水っぽすぎる場合は病気の可能性もあるため注意が必要です。
餌の吐き戻し行動
餌を吐き出すのはオスの鳥さんが行う発情行動で、好意を向ける相手への求愛です。その相手は、大好きなおもちゃや止まり木、飼い主さんの手など鳥さんに限りません。特にセキセイインコやラブバードと呼ばれるコザクラインコ、ボタンインコなどに吐き戻しはよく見られます。
病的な『嘔吐』と発情による『吐き戻し』を混同しないよう注意が必要です。病的な『嘔吐』の場合、首を左右に振りながら吐くことが多く、ケージの網などに嘔吐したものが付着しがちです。一方、発情による『吐き戻し』は、一箇所にボトリと吐き戻すことがほとんどです。病的な『嘔吐』が疑われる場合は、すみやかにかかりつけの動物病院で診てもらいましょう。
また、文鳥は発情による『吐き戻し』をすることはありませんので、そのような様子が見られた場合は、何らかの疾患を疑ってください。動物病院で診てもらいましょう。
止まり木や手にお尻をスリスリさせる
愛鳥さんがあなたの手や止まり木、おもちゃなどにお尻をすりつけることはありませんか?この行動も、発情期特有の求愛行動のひとつであり、とくにオスの鳥さんに多くみられます。
ちなみに・・・我が家ではメスのサザナミインコがスリスリをすることがあります。
このスリスリする行動は、鳥さんがパートナーと交尾をする際の動作に似ていることから、発情による本能的な行動だと考えられています。
また一方で、メスの場合は交尾を受容する(受け入れようとする)姿勢をとることがあります。コザクラインコやボタンインコなどのラブバードによく見られる姿勢で、大きく羽根を広げるポーズです。ただし・・・こちらも、オスがそのような姿勢をとることもあるので一概には言えないのですが、メスの場合(もしくはメスだと思われる場合)はこのような受容姿勢にも気をつけて観察をしておきましょう。
過発情が引き起こす6つの危険な症状
いま挙げたような発情行動が頻繁に起こる、過剰に繰り返す、持続的・慢性的に続く場合は、いわゆる『過発情』な状態となっていて、健康をおびやかす様々な症状を引き起こす危険性があります。それらの症状を6つ紹介します。
腹部ヘルニア症
メスの鳥さんは、体内で形成された卵による内臓の圧迫を防ぐために、腹筋を伸ばして広げる必要があります。過剰な発情はホルモンに異常をきたし、腹筋を伸ばすコントロールができなくなります。そして、ついには腹筋が裂けてお腹の内容物が体の外に脱出してしまいます。
特にメスのセキセイインコに発生しますが、コザクラインコなどのラブバードやオカメインコ、文鳥でも発生します。鳥の手術の半分くらいはこのヘルニアが占めるそうです。
過剰産卵
小型の鳥さんは多産(たさん)の傾向があるようです。野生下のセキセイインコは年間に10個前後の卵を産みますが、飼育下では個体によっては100個以上の産卵をするケースもあります。通常は1年に繁殖回数は多くても2回です。これを上回る場合、過剰産卵の状態と言えます。
併せてカルシウムなどの栄養が不足していたり、卵管に異常が生じると、卵の形成がうまくいかなかったり、このあと説明する卵詰まりの症状や骨折をしやすくなったりもします。
卵詰まり
産卵されるべき卵が子宮部や膣部から出てこない状態のことを『卵詰まり』または『卵塞』などと呼びます。
ほとんどの鳥種で排卵後24時間以内に産卵は行われますが、低カルシウム血症や卵の形成に異常があった場合などに『卵詰まり』となります。症状としては、元気がなくなる・羽を膨らます・食欲が落ちる・イキんで声が漏れる、などです。
卵詰まりが確認、もしくは疑いがある場合はすぐに鳥さんを診ることができる動物病院で受診をしてください。すぐに受診ができない場合、自宅でできることはしっかりとした保温です。
まちがっても、飼い主さんの手で圧迫させて排卵を促すことはやめて下さい。とても危険です。また、油などを潤滑剤として浣腸したりする行為には意味も効果もまったくありませんのでやめましょう。
卵管脱
卵管に異常な動きがあった場合に、卵管が反転して体の外に飛び出してしまう状態です。
痛みを伴うので、食欲不振になったり羽を膨らませたり、元気がなくなるなどの症状が見られます。卵管脱は早めの処置が必要です。脱出した患部を自分でかまないように、自作でかまわないのでエリザベスカラーを付けてあげると良いです。また、綿棒を生理食塩水や水で濡らして飛び出た患部を体内にやさしく押し込むことも試みてください。押し込むことが難しいようであれば、刺激の少ない布などを濡らして患部を包んであげて、早めに病院へ連れていきましょう。
多骨性骨化過剰症(多骨性過骨症)
鳥さんは産卵前に卵殻(らんかく・卵のカラのこと)を作るためのカルシウムを骨の中に蓄積させます。
このプロセスには発情ホルモン『エストロゲン』が影響していると考えられていて、通常はこのエストロゲンが減少することで、カルシウムの蓄積は終わります。しかし、過発情になるとエストロゲンが減少せずに、どんどんカルシウムが骨の中に沈着し続けます。
症状が進行すると、脚が麻痺してしまったり、うまく飛べなくなったり。気管にカルシウムが沈着した場合などは、咳や鳴き声に変調をきたしたりもします。
多骨性骨化過剰症は、セキセイインコに多く見られる症状です。
精巣腫瘍
オスの鳥さんは繁殖に関わる病気というのは少ないんですが、最後に紹介するのはオスの『精巣腫瘍』です。ただ、この精巣腫瘍に関しては、過発情が直接の原因であるかどうかまだはっきり分かっていないようですが、過発情が精巣腫瘍に関与していることは間違いがないと思いますので、解説をします。
セキセイインコに頻繁に見られる症状で、ほかにはウズラでたまに見られるそうです。その他の鳥種においては、年老いてからの老齢性の精巣腫瘍が時々見つかる程度です。
症状は次のように段階的に進みます。
蝋膜(ろうまく)が発情期のメスのように褐色化していくなどメス化の兆候が見られます。
精巣が肥大化していきますが、この時点ではまだいずれの症状も出ていないです。
精巣が肥大化することで、脚の麻痺、吐き気、食欲不振、呼吸障害などの症状が見られるようになります。いずれも肥大化した精巣が他の臓器を圧迫することで引き起こされます。
腹水が貯まるようになり、場合によっては急激な体調悪化で死亡することもあります。
『精巣腫瘍』に対しての精巣摘出手術はかなり難しい手術とのことです。僕が数年前に受講した横浜小鳥の病院院長のオンラインセミナーでは、「この手術が行えるのは当院だけ」とおっしゃっていました。将来的にこの手術の技術が多くの動物病院に広まり、精巣摘出手術によってたくさんのセキセイインコさんたちの命が助かることを望みます。
おわりに
鳥さんにとって発情をすること、してしまうこと自体はとても自然な生理現象です。ただ、飼い鳥さんにおいては、繁殖を望まないのであれば産卵すること自体が命がけの行為ですので、できるだけ発情は飼い主さんが抑えてあげて、過発情によるさまざまな症状から鳥さんの命を守ってあげましょうね。
次回のブログ記事では、これら飼い鳥さんの『発情対策』について、我が家の例も交えながら詳しく解説をします。